新人の時からお世話になっていた患者さんが亡くなった。
「大丈夫だよ。いつか上手になる」
数年前、新人看護師のへたくそな採血にそう言って下さった患者さんがこの世を去った。
その人は昔、看護師をしていた。
「あの人、昔は怖い看護師だったんだよ」
職場のベテランナースは話す。
一緒に働いたことがあるそうだ。
仕事ができて、厳しくて、とても優しいことで有名だったそうだ。
その人は癌だった。
よくある話だ。
比較的若い人の癌。
よくある不幸な話。
入職当初はお元気な印象があった。
自分で身の回りのことができていた。
認知機能もクリア。
癌性疼痛に対して鎮痛剤を使って時折入院しながら生活されていた。
緩和ケア委員会に入って、毎月県外である緩和ケアの学習会に参加して勉強しているいまでこそわかる。
苦しかっただろうな。
看護師をしていた自分自身が死に近づいていく日々は。
人生は知らないほうが楽なことが少なくない。
知っているがゆえにもがき苦しむことも多い。
知っていれば対策を打てるものも少なくはないのだけど。
あの時に、この視点があったらな。
もっといい関わりができたんじゃないかって今でも思い出す。
今でこそ、よっぽど細い血管でなければ採血やルート確保ができる。
だけど昔の俺は
看護師にとって基礎的な技術である採血が苦手だった。
「大丈夫だよ。いつか上手になる」
元看護師だ。
一緒に血管を探して、指導されながら穿刺した。
あれ、痛かっただろうな。
その人との最初の記憶はそれかな。
数年経つと入院する回数が増えてきた。
昔に比べて鎮痛剤もかなり増量されている。
在宅での看取りを希望されていたので頑張って通院をしていた。
「やり残したことはたくさんあるけど考えないようにしている」
深夜に唇を震わせる。
眠るともう二度と起きられないかもしれない。
とても怖いの。
その時の俺はなんと返したか覚えていない。
なんと返事をできたのか、覚えていない。
その後、うちの病院で亡くなった。
その時には病棟が変わっていたので、勤務の合間を縫って面会に訪れていた。
電子カルテ上で記録を見て知った。
出会った頃よりも痩せた姿。
薄くなった唇元に優しげな笑みを浮かべる。
少し首をかしげながら笑う癖があった。
鎮痛剤や鎮静使用した、苦しまない最後だったようだ。
なにもできなかったなあ。
採血だってもっと上手にできるようになりたい。
看護観についてもお話をしてみたかった。
なにもできないのはしんどいなァ、、、。
その経験から急性期病棟で働きながら緩和ケアの勉強を始めた。
残された時間が少しでもより良いものになってほしい。
痛みが少なく、自分自身の人生を歩める状態を作りたい。
残される人にとっても悪くない時間であってほしい。
まだまだ勉強不足だけどそう思いながら日々関わっています。
すぐに落ち込むし、患者さんに優しくできないことも多いけれど。
「おわりよければすべてよし」とまでは言えないけど。
俺は看護師は人と関わるための手段だと思っています。
目的ではなく手段だ。
かっこよくて優しい人になりたいです。
読んでいただけてうれしいです。
こんな感じに看護師の話を書いたりえっちなことを書いています。
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