ホ別3万円の女の子とさよならした話。
今よりも、もっとダサくて、恥ずかしくて、情けなかった話です。
いや、ほんとに。
君のためとか言いながら結局は自分のためだったんだよな。
▽過去記事
ホ別3万円の女の子とさよならした話。
「ずっと一緒にいてよ」
涙を流していた。
この子が湿度の高い声を零すのはいつも夜中だ。
ベッドの上だ。
この子は毎晩のように身体を売る。
うちに帰ってきたときはいつも元気だった。
今ならわかるんだけど無理して元気に振る舞っててくれたんだろうな。
当時の俺は妙に元気なその子にいら立ちさえ覚えていた。
他の男に会って楽しそうだなァ…なんて。
そんな自分を思い出したくもない。
名前を間違えたことがある。
ふとした時に数年前の恋人の名前を口走ったことがある。
聴こえない振りをしてくれた。
いや、本当に聴こえてなかったのかもしれないけど。
今じゃもう確かめようがない。
ホ別3万円ってことは抱かれるたびに3万円入る。
ホ別=ホテル代別ってことだ。
つまり男は3万円+ホテル代が必要になる。
週休2日の1日1回でも2か月程度で100万円は貯まる計算だ。
実際はその子の塾代や生活費に充てていた。
それだけじゃないな。
金銭感覚は狂っていたと思う。
お金じゃ大切なものは手に入らないっていうけどあれは嘘。
ほとんどのものはお金で買える。
赤いリップも。
おしゃれなワンピースも。
お出掛けするのが嬉しくなるような靴も。
お金がない人は選ぶことができないだけ。
以前、そんなことを言っていた。
涙が出なくなる頃には服や靴、アクセサリーが増えていた。
ほんの少しずつ痩せていく心。
「大学に入って、就職して、ちゃんと稼ぎたい。
もっといろんな世界がみたいな」
小さく笑いながらそう話す彼女はどこを見ていたんだろう。
籠の中の鳥みたいだなって。
なんとなく、この子は都会に行っても同じように稼いでいくんだろうなって思っていた。
いや、そうであって欲しかったのかな。
籠の中に閉じ込めて所有物にしたいって思っていたのかも。
誰かが自分の元から去っていくのは寂しいじゃないか。
「プラダを着た悪魔」を観た時の感じかな。
成功の道を歩み始めた主人公のことを素直に喜べない彼氏の気持ちはこんな気分なのだろうか。
控え目に言ってメンヘラである。
いやまあ、みんな多少はメンヘラだしな!
普通の人に擬態した変態ばかり。
みんな狂ってみんな変。
さよならは秋の香りがする。
落ち葉の上をリズミカルに歩く。
風に撫でられたイチョウの葉がくるくると踊る。
長い髪が風に揺れる。
お風呂の後のドライヤーをめんどくさがっていたのを覚えている。
コートを出すにはまだ早い、アウターに迷うような季節。
「明日出ていくね。今までありがとう」
いつも唐突に唇を震わせる。
いや、それは察していた。
受験とかの問題や、家族との折り合いなんかいろいろあったんだろう。
仕事に打ち込んでいた俺と時間が合わなくなっていた。
なんとなくイライラするじゃん。
一緒にいたらなんとなく腹立たしい感じ。
倦怠期ってやつなのかな。
俺は不穏な空気を察しながら日々を過ごしていた。
自分から言うのが嫌だなって思っていた。
この子の親に殴られたという痣を見て、出ていけなんて言えなかった。
っていう言い訳かな。
本当はこれも俺自身が傷つきたくないからだったんだろうなって。
失いたくなかった。
うちを出ていく日には自分の足で出ていくと話す。
鍵を返して、そのまま振り返らずに部屋を後にするのだと。
「なんだかさみしいね」
「だったら行かないでうちにいてよ」
情けない声を出したような気がする。
当時の俺は馬鹿だから。
「これ、困った時に使って」
中身は諭吉が数十人。
3年付き合った元カノと結婚すると思って学生の頃から貯めていたものだった。
就職して、別れてからもなんとなく一緒になるんじゃないかと思って貯めていた。
「ありがとう」
そう囁いて受け取る。
今なら言える。
その金、返してくれ。
捨て銭じゃねえか!!!!!
せめて、元カノがほかの男と結婚した時に渡すとかさァ!!!!!
ダサいなりにもっと美学のある使い方ってあるじゃん!!!!
お前も、受け取ってんじゃねえ!
1回は断れよ!
日本人の礼儀とかいうよくわかんない文化はどこいった!!
たのむから。
金、返してくれよ~涙。
日本男児なんだぜこれでも。
母ちゃんの腹の中に大和スピリッツは忘れてきた。
「さよなら」
自分の手でドアを開けた。
コンビニに行ってくるみたいな気軽さで部屋を出ていった。
あんなに痛いキスは初めてだな。
そんなふうに別れてもその後も結局は何回か会ってるんだけどね。
現実なんてそんなもんよ。
夏が秋に殺されたように秋が冬に犯された。
冬は春に拐かされた。
その子はいつの間にか遠くへ行った。
元気にしてるといいな。
あ、でもほんの少し不幸になっててほしい気もする。
失うものも多かったし、思い出すと頭悪いなって思うけど楽しかったしいいか。
あの子のように自分の環境を変えるために努力をしていた人は周りに少ない。
狂っていてどこかずれているのに優しくてやっぱり素敵な子だと思う。
今なら昔よりも大切にできるんだろうなを繰り返している。
そんな昔話でした。
おひたしおひたし。